求菩提山の約束

コロナでお店をおやすみしようかと決めかけていた頃、お客様がきた。最近はありがたいことにカフェのお客様が多くなってきてお茶を淹れて1日が終わった…という日もある。
そんな日が続いていて、一人ずつぽつりとお客が現れるのは久々だった。その方とは、その少ない頃から、よく話をする。
いつも問いかけられる。メールも、手紙も、本も手渡されたことがある。私はいつも、その切実な問いにどきり、としてでも困ったような表情のその真剣さに笑ってしまう。
いつも笑いますよね、とよく言われるが、無意識だった。
その日、外は天気がよくて、その方が帰ると聞いて、そうか。帰るのか、と一人取り残された気分になった。思わず、今からなにするんですか?と羨ましい気持ちで聞いた。
特に予定ないですけど、良かったら今から一緒にドライブいきません?だめですよね、え、だめですか?と誘ってくれて私は思わずえ、行きたい。とときめいた。お店を閉めて女の子二人でドライブ。今ならなにしても許される気がして不思議だった。しばし鬩ぎ合い困惑したが、ふっとおじいちゃんたちの顔が浮かんだ。いや、店主としてよくないと冷静になる。もしかして、彼らはこんな日でも来るのかもしれない。
やっぱりやめておきます。
そのかわり山へ登る約束をした。お店のもっと先に行くと求菩提山だ。LINEもしらないから、現地集合。

もう来ないかなと思ったら、おじいちゃんが来た。元気そうだ。二人も来た。これはお店を閉めなければ、と改めて思った。

求菩提山に登るのは初めてで、しかもこのような混沌とした時期に、しかも家の近所の小さな山で迷いかけた経験もあり、自然への畏れは大きいわたしが、自らそれより高い山へ挑戦しようとしている。自然を求めていたのは確かだ。求菩提山の下にある駐車場があることなどを教えてくれたのも、昔理科の教師だったおじいちゃんだ。下見しようと家族を車に乗せて山へ向かった。それらしき駐車場があったが、少し違うような気もして、車を止めて外に出た。すると山からゆっくりゆっくり車が下り、わたしの前で止まると、あら!りこちゃん!と言われた。なんと、その理科の先生だったのだ。助手席には奥様をのせている。私は興奮して求菩提山に登ろうと思うけど、登り口が分からないことなどを伝えると、まだ先に登り口があることを教えてくれた。山の使いかと思うくらいのタイミングだった。ありがとうございます!というと紅葉マークの車はまたゆっくり坂を下っていった。重い病気を持っている方だけど、最近よく縁側に来てくれる。顔色もよくて、冗談も言うようになった。ホットジンジャーの美味しさを覚えていつもホットジンジャーを頼んでくれる。元気そうでよかった。
家に帰ると、求菩提山は初心者には難しいから気をつけて、とその方からわざわざ他の方伝えに連絡があった。わたしは急に怖くなり、約束をしていたお客様にやっぱり今はやめておきましょうと連絡する。
今こそだと思うことと、今はだめだと思うことが表裏一体になっている。刻々と今はだめだに変化する。
でも、だからこそ一緒に山に登ったり、ドライブにいったり、桜の木の川縁で足をぶらぶらさせて本の話をする想像だけがわたしの中でまだ、きらきら輝いている。読めない本もまだまだ沢山ある。
達成できないできごとや、守れていない約束があることが私を幸せにして、わたしを前にすすめている。

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